ヤマノベさん(東京)
日雇い労働で路上と飯場、個室ビデオを転々としてきた30年あまり。初めて手に入れた穏やかな時間と場所
年始に「1年間365日室内で過ごせますように!」と抱負を掲げたヤマノベさん(57歳)は、賃貸住宅の初期費用などを提供して住まいを持つことを応援する基金の事業「おうちプロジェクト」を利用して2023年6月にアパートに入居しました。これまでの経緯と家を持ったことでの生活や気持ちの変化、今後の展望について伺いました。
- Qホームレス状態になった経緯は?
- 20代前半で東京に出てきたときに、上野でいきなり日雇い労働の声をかけられてから、ひと月の半分以上は飯場(※1)で暮らしていました。仕事が終わるとまた上野に帰ってきて、街でサウナに泊まったり、ウロウロしているとまた次の仕事の声がかかったりという生活を繰り返していく中で、住所を構えて仕事を探すという意識がそもそもありませんでした。それでも景気が良いときはなんとかなっていたけど、そのうち賃金が下がったり、資格や免許を持ってるとか、居住地がはっきりしている人しか雇われなくなってくると、お金が出ていく一方になって、30代前半には路上で寝ることも増えていきました。
- Q ビッグイシュー基金と関わるようになったきっかけは?
- 生活が苦しくなって、炊き出しに参加するようになりました。その頃、よく通る駅でビッグイシューの雑誌を販売していた人に、仕事内容を詳しく聞きました。すごく丁寧に説明してくれたのですが「俺、何もないから」ってつぶやいたら、「みんな何もないよ、だから大丈夫だ」と後押ししてくれて、その場で事務所に電話をして、翌日面接、すぐに研修ということになりました。
- Q おうちプロジェクトの利用について
- 基金のシェルターを使うこともありましたが、電気代の高騰で個室ビデオでの寝泊まりに月9万円ぐらいかかるようになって、「これはしんどい」「これはもう無理だ」となったことや、月9万円 あれば部屋が借りられるのではと感じはじめたタイミングで、基金スタッフからおうちプロジェクトの話がありました。すぐに「やる!」と返事をしました
- Q お住まいができて生活で変わったことはありますか?
- のんびりするようになりました。今までは個室ビデオの時間に合わせて生活していたので、延長料金が発生する前に出なくちゃとか、部屋が埋まっちゃうから販売を終わらせて入ろうだとか、雨が降っても時間までは入れないとか、時間に追われていたものがなくなりました。今は時計を身に着けずに穏やかに過ごしてます。朝遅れた分、長く販売しようとか、今日は陽が強いから日中は販売を避けようという感じで、自分の都合で予定が組めています。
- Q 6年ぶりにアパートに入居された感想と近況を教えてください。
- アパートの大家さんが植木や花壇をやっていて、いつも花がたくさん咲いています。部屋でぼんやりとそれを眺めてきれいだなって思う時間が多いですね。そういう時間があると、販売から帰ってきた時、からだが疲れていても、気持ちの部分では疲れたとかしんどいとかは感じません。基金の活動で家庭菜園部(※2)に参加していて、花や野菜をみんなで育てているので、自分の家でも植物を育てたいと思っています。
(写真:横関一浩)
※1建築現場や工事現場の作業員が泊まる宿泊施設
※2基金が応援する当事者を主体としたクラブ活動。ダンスやフットサル、調理等の活動もあります
※この声は2023年8月時点のものです。現在は状況が変わっていることがあります。